楽園王25周年『物語』
もう一人の劇作家: 「私は今、セロ弾きのゴーシュの構造を借りてね、新作を一本仕上げようとしているんです。うまく書けない劇作家がいてね、それは私のことかも知れませんが、世間からの評価も芳しくない、でも夜な夜な誰かが訪ねてきて/変な、依頼を受けるんです。そしてその依頼をクリアしていく内に/なんだか、一本の物語が出来上がるって寸法です。そんなアイデアをまとめていたら/君が、こうしてやって来た。これは勘ですが、君が最初の依頼者になるような気がします」
ミチル「不思議ですね、そんなことって…、あの、私……、」
楽園王25周年…、ベケット『芝居』に始まり、清水邦夫『楽屋』、イヨネスコ『授業』、オムニバスof OiOiでのオリジナル短編『増殖』に続く、漢字2文字シリーズ第5弾『物語』!! 20周年の『仮病ガール』以来5年ぶりの新作公演になります。25年間下北沢での公演を行ってこなかった楽園王、初進出作品でもあります。
(以下、チラシ裏面より)
楽園王からの手紙
初めての方にははじめまして。久しぶりの方にはどうもお久しぶりです、お元気でしたか?
いつもいつもの方には、いつも本当にありがとうございます。楽園王の長堀です。
ごあいさつ、チラシの裏面にて失礼いたします。こんな文面から始まるお手紙を初めて書いてから25年が経ちました。
楽園王25周年、古典戯曲が続いてきましたが、やっと楽園王の長堀作品の案内をさせていただきます。
どうぞよろしくお願いいたします。
今回、25周年に当たり、何か目玉になるような公演が出来ないか、いろいろ考えてきました。その一つが、今回の単独シモキタ初進出公演です。
僕は今まで、SPIRALMOONへの書き下ろしやOi-SCALEのオムニバスof OiOiの中での短編発表などで下北沢への作品提供がなかったわけではありませんでしたが、
実は25年も東京で活動しながら下北沢での楽園王公演をやってきていませんでした。それには特別な理由もなく、
仲間の若い演劇人には「演劇も普通の商売と同じく立地大事だよ」と下北沢での公演を勧めてきたくらいで、
下北沢に来なかったのは、ただの縁でしかなかったのですが、今回、
「25年もシモキタでやってないの?」
「シモキタって半島?」
「ザワッ!」ってコントを思いついた為、初めて進出してみることにしたのでした。
駅前劇場さん、ほんと、受け入れてくれてありがとうございます。
そして、ならば新作を書こう、と考えてみて、過去を振り返ってみたら、20周年の時の『仮病ガール』以来、
長編の新作は書いていないことに気が付き、愕然としました。この5年間は短編もたくさん書いたし、再演作もぜんぜん違うものに書き直したものもありましたが、
基本は古典戯曲の演出ばかりで、作家としては控えめであったということが分かりました。
古典の演出は意義も深く、魅力的な仕事なのですが、楽園王はもともと自分の書いたものを上演する目的でスタートしたカンパニー、
こりゃいかんな、と改めて思ったわけです。
さて、新作、と言いましたが、実は今回、20年近く前に書いた作品の一部を使用しようと考えていて、
今まで読み直したこともない古い台本や資料を引っ繰り返して読んだりしました。
それは驚くべき体験でした。そこには、今の僕にはない(失った?)若い才能が書いた魅力的な文章が溢れていました。
そして、今の自分からは考えられない“甘さ”もありました。
ある種のせつなさがありました。歯痒さがあり、今とは違う諦めがありました。
あらためて過去の何を読んでも、「忘れていたな」と思うより、「似てるけど違う奴が何か言ってるな」って感覚です。
共感はできますが、あの頃、確かに持っていたものを僕は今持っていない、と感じます。
それは、残念とか落胆よりも、すごく不思議な感覚です。もう一人の自分に出会った感覚。
ある日、僕は家の奥に眠っているタイムマシンの電源を入れると、過去の自分に会いに行きます。
適切な助言さえあれば、あんなことになならなかった、そんなタイミングが人生に幾つかあり、
それを回避させる為に過去を変える決心をとうとうしたのです。
タイムパラドックの問題など、もうどうでもいい、自分のあの日の絶望をどうしても解消したい。
失った人を失いたくない。そんな思いから。
結果は散々たるものです。あいつ、昔の自分、僕の言うことなど聞きゃしない!
…いいかい? そのまんまだと、どれだけ酷いことになるか、
…いやいやそうじゃなく、いいから話を聞けって、聞けって、おい! おーい!
…過去の自分は自分ではなく、他人でした。いや中途半端に似てる分、イライラさせるところばかり目について、
そして思っていた以上に尖がっていました。
僕は肩を落として、再びこの時代に戻ってきました。あーあ。
そして30分ほどしてイライラがおさまると、今度は笑いが止まらなくなりました。
一言で言って、要するにあいつは“馬鹿”でした。僕は馬鹿でした。
2016年の楽園王の25周年、ベケット『芝居』からスタートしました。d-倉庫でのフェス参加のため、昨年から決まっていた公演です。
次にサブテレニアン開館10周年記念月間に呼んでいただき、清水邦夫『楽屋』を上演しました。
夏には、島根県の雲南市チェリヴァホールと東京板橋のサブテレニアンでイヨネスコ『授業』を上演。
これは板橋ビューネ参加公演で、作品は12年上演し続けている長堀演出の代表作です。
12年間、同じ演出で上演し続けられる作品を持つということが、カンパニーの底力だと思っています。
また、Oi-SCALEオムニバスof OiOiへも4回目の作品提供で、今年は短編『増殖』を書き下ろしました。たぶん、けっこう好評でした。
『芝居』『楽屋』『授業』『増殖』…、そして今回は『物語』を書いて上演します。
12月に予定している公演は漢字2文字ルールからは解放する予定ですので、今回が25周年の中でも一旦、
節目って考えています。物語も作風も何のつながりもない作品群ですが、この5本を通して、
全部がいい感じになればいいな、という個人的な思いがあります。好評作が続いたので、けっこう重めのプレッシャーを感じながら、
良い新作を新天地シモキタにて発表できればいいな、と思っています。
そんな作品、そんな公演、もしお時間がありましたら、ぜひ足をお運びください。
この人数の俳優に集まっていただいたのも久々なので、俳優の魅力を引き出すような豊かな迷路を描きたいと思います。
また、今後とも楽園王をどうかよろしくお願いいたします。頑張ります。頑張ります、って言葉嫌いな人演劇の世界に多いと思うけど、
余裕なんかないから、馬鹿は必死に頑張ればいいと思う(笑)
楽園王 長堀博士
期間 |
2016/10/21 (金)~2016/10/23 (日) |
---|---|
劇場 | 駅前劇場 |
出演 |
|
脚本 |
|
演出 |
|
サイト |
※正式な公式情報は公式サイトでご確認ください。 |
スタッフ | 照明:南出良治、音響:齋藤瑠美子、美術協力:田中新一(東京メザマシ団)、チラシデザイン:小田善久、ほか |
---|---|
その他注意事項 |