板橋ビューネ2018参加公演―楽園王二十八周年公演―

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」

「銀河鉄道の夜」とは、生きている間にはとうとう、まったくと言っていいでしょう、評価をされなかった作家の、出版はされなかった作品です。一つの決定された物語ではなく、宮沢賢治の死後に発見された4種類の、まったく同じではないバラバラの原稿の総称、という考え方が出来ます。何度も書き直された最後のバージョンが現在では主に出版され、読まれてきていますが、それすらも本当に完成していたのか?という疑問が残る、というのが、宮沢賢治が好きだという読者たちの、多くを占める認識ではないでしょうか。しかし、それだからこそ、より想像力を掻き立てられる。謎に分け入る楽しみがあり、不思議な広がりと、一筋縄ではいかない魅力がある。その上で、さて楽園王では、楽園王でしか出来ない視点で「銀河鉄道の夜」を上演いたします。ちなみに、長堀、けっこうたくさん劇作家としての仕事を多くやります。もちろん、丁寧に作品世界を拾いますが、現代に銀河鉄道を蘇らせる工夫は、いっぱい執筆という形で仕事をしました。あらためまして、どうぞよろしくお願いいたします。いい上演にします。


「こんな闇夜の野原の中をゆく時は、客車の窓はみんな水族館の窓になる。
林檎の中を走ってゐる、けれどもここは一体どこの停車場だ……」


こんばんは。きっとこれを読んでいるのが夜だと仮定して、こんばんはと書いてみます。初夏に上野の森美術館でエッシャー展が行なわれました。行かねばならぬと思い、そこへ足を運んだのは楽園王の9月公演の執筆へ良い刺激を貰う為であったのですが、それはそれとして、実は10月に上演する為に準備をしていた『銀河鉄道の夜』への影響力が少なからずありました。実はその時期には着々と、上演の為に原作を丁寧に戯曲化してきていたのですが、登場人物の「鳥捕り」の鳥を捕る場面をどう具体的に舞台化するかに関しては悩むところが大きかったのです。しかし、エッシャー展にて彼の絵を見た時、「鳥捕り」が鳥を捕る情景が、エッシャーが風景をタイルの中に閉じ込めようとした仕事に重なりました。「タイルに閉じ込め」というのは私の彼の絵への印象です。エッシャーの絵を描く現場を見た訳ではないのですが、僕の想像の中では、両者が同じことをしているように思えたのです。そして、それを切っ掛けに、『銀河鉄道の夜』を純粋に戯曲化し、それを上演することでは、『銀河鉄道の夜』の上演に到達しないのではないか、という考えに変わってきました。『銀河鉄道の夜』、これほど多くの作家やアーティストに刺激を与えた作品は少なくないでしょう。舞台化も多く、素晴らしいものも多いと耳にします。その理由として、この童話、これでは完成してないのではないか、との意見があるからだと考えられます。宮沢賢治が亡くなった後に発見された遺稿、それも、何度も書き直され、発見された幾つものバージョンが平行宇宙のように存在します。特に、それぞれのバージョンではラストなどは大きく違ったりもしていて。私は、異稿の多くを収めている宮沢賢治全集の7巻を手に入れて、改めてすべてに目を通してみることにしました。また、ラストが違うたくさんの物語、をキーワードに、昔仕事で様々なカンパニーの公演の裏方をやった、バレエの『白鳥の湖』にも思いを馳せました。僕が舞台袖から見たロシアの幾つものバレエ団や日本の『白鳥』は、すべてがラストが違っていました。王子と白鳥が勝利し、ハッピーエンドなものから、片方だけが死に、残された者が嘆き悲しむラスト、あるいは、二人とも死んで終わるものもありました。僕が昔に『台詞劇・白鳥の湖』を書いたのも、もう一つの違うラストを描く試みからスタートしていましたし。(実際はまったく全部が違うストーリーだったのですが、)さて、『銀河鉄道の夜』です。そんな風に色々考えていくうちに、ああこの公演、演出家としてだけ作品に係わるのではなく、自分の劇作家としての側面が大きく仕事をすべきだという発想が顔を出しました。この公演には、何か、大きな抜本的な工夫が必要だと。宮沢賢治という人は、妹のトシの早かった死に深く傷つき、その影響で多くの詩を残しました。その詩にも当たらねば。なぜなら、宮沢賢治は死んだ妹に会えないかと北へ向かう鉄道に乗ったとされ、『銀河鉄道』にも、そのことの影響は強く感じられるからです。では、ジョバンニはそのまま宮沢賢治本人だったろうか? カンパネルラは妹のトシだったのか? 彼はこの作品で、彼女と旅をすることが出来たのだろうか? そんなことを考えながら、今回は上演作品を考えて行きます。また、結果として、過去に色々な形で発表された銀河鉄道とは違うものが上演できるのではないかと考えています。もしもあなたが気に入って下さったら大変に嬉しいです。お時間が出来ましたら、どうかよろしくお願いします。そして囁かれる悪いニュースにめげず、吉報を待っています。父が帰ると言うニュースのような。(楽園王 長堀博士)

期間 2018/10/10 (水)~2018/10/14 (日)
上演時間:約1時間50分(休憩なし)を予定
劇場 サブテレニアン
出演
  • 政井卓実
  • 大畑麻衣子【miezmiez】
  • 村田望
  • 小澤凌【デンキブラン】
  • 関大輔【EgofiLter】
  • 藤田早織
  • 色鳥トヲカ【劇団Яeality】
  • まじまあゆみ
  • 岩崎舞子
  • 鳥海恵里【朗読の会こいひめ】
脚本
  • 長堀博士
演出
  • 長堀博士
サイト

http://rakuenoh.com

※正式な公式情報は公式サイトでご確認ください。

スタッフ 【照明/音響/舞台】長堀博士
【当日運営】出演者
その他注意事項

サブテレニアン(東京都)

期間 2018/10/10 (水)~2018/10/14 (日)
上演時間:約1時間50分(休憩なし)を予定
タイム
テーブル

10月10日(水) 19時30分開演
10月11日(木) 19時30分開演
10月12日(金) 19時30分開演
10月13日(土) 14時開演/18時30分開演
10月14日(日) 14時開演
 ※開場は開演の30分前。※受付開始も同時の予定。
劇場 サブテレニアン
料金 2,800円 ~ 3,300円
【発売日】2018/09/05 (水)
【ご予約/前売 】2800円
【当日】 3300円
チケット取扱

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